夜明け前に東京の自宅を出て伊豆へ向かう。現地では携帯電話で写真を撮り、昼食を摂り、睡眠を取り、そして、その日のうちに東京へ戻る。縁あって、そのような生活を続けている。コンクリートに囲まれた東京とは一味違った伊豆のゆったりとした空気感を切り抜こうと携帯電話のカメラを向けると、解像度の低さが功を奏し、「昭和の写真」に仕上がった。子供の頃、まだ若かりし両親が連れて行ってくれた海水浴場の写真は、輪郭が不鮮明である上、すでに色褪せてしまっていて、切ない。携帯電話カメラの朴とした映像からは完璧の「カ」の字も感じられない。ゆえに、僕を「あの頃」へといざなってくれるのだ。
祈るようにシャッターを切る。どことなく焦点のずれた粒子の粗い写真ができあがる。そうだ、これは、今はなき110サイズのポケットカメラを初めて手にした時の感覚だ。